沖縄②20.2.20

2/20(木) 薄く明けてきて6時起床。歩いていける距離の、24時間営業の喫茶店へ向かってみる。通りがかりの家には玄関の門にシーサーが鎮座しているのが何軒か見られた。シーサーとは『獅子』のことらしく、伝説上の獣なのだとか。ごろごろと並んでいる植木鉢には、あまり見慣れない植物が植わっている。
喫茶店『ピッコロ』は、昨夜の『ミッキー』同様に元気なおばさまが一人で切り盛りしていた。すでに席が何組か埋まっていて、なにかを炒める音がジュージューと聞こえる。
数あるメニューのなかから豆腐チャンプルーを注文。「多かったら持って帰ったらいいからね」と運ばれた一皿には、どしりとした豆腐やキャベツ、短冊に切られたスパムがてりてりと盛られていた。そこにご飯と小さな沖縄そば。ボリューム!豆腐はしっかりと豆腐の味がして、キャベツはシャキシャキと美味しい。


宿に戻り荷をまとめ、8時半に出発し北へ向かい、『東南植物楽園』へ。開園の9時に到着。植物楽園は二つのゾーンに分かれており、まずは植物園のほうへ。夜から朝になってしばしのこの時間のしっとりとした光のなかに、トックリヤシやユスラヤシや、さまざまな背の高い植物が並んでいる。ヤシの木は幹をよくみると竹のように節目が重なっており面白い。のんびりとまわって、つぎに水上楽園というゾーンへ。こちらがメインの園らしく、湖がいくつかあるなかを見慣れない植物や動物の小屋が配置されているようだ。園内は、南国的打楽器の音楽と、キュキュキュという鳥の声が聴こえてとてものんきな雰囲気なのだけど、突然、背中をかけあがる雷のような音が重く響き渡る。嘉手納基地からの軍用飛行機はものすごく低く飛んで、ドアの作りが見えるほどだ。


いちむし村、というエリアにつく。ここにはカピバラやカメが飼育されているらしく、100円でキャベツと人参を手にでき、それを彼らにやることが出来るのだ。さっそくそれらを手にして柵に近づくと、ものすごく大きなカメがじっとしていた。トングをつかってそのカメの口元に人参を近づけると、ゆっくりと頭をあげて、開いた口の中には、人間よりも小さくて厚い、たっぷりと粘り気をまとった桃色の舌が見える。人参をボリリとかじりとると、3回ほど咀嚼をしただけで、もう一度人参をかじろうと口を開ける。めちゃくちゃにスローだ。そのカメの様子にひどく惹かれて、じっと顔をのぞきこむ。カメはとても黒い目をしている。このカメに人参を差し出すことが出来た、というだけで、今年一年分の幸福を満たされたような心地になった。
それから、バードオアシスというエリアへ。二枚ある柵をぬけると、そこには不思議な鳥がワサワサと暮らしていた。フラミンゴは片足立ちで、ホロホロチョウは群れてあたりをうかがって、白いクジャクは悠々と歩いている。そんな不思議な鳥たちに混じって真っ白なアヒルが一羽きりで、ふくらんで座っていた。頭をかいてやると、黄色いくちばしを白い毛のなかにうずめて、ふうとため息をついたようだった。
それからヤギやらウサギやらを見て、満足して外に出る。10時半。車に乗り込み南下し、中村家住宅へ。ここは、18世紀中頃のお屋敷で、戦前の屋敷がこのようなかたちで保存されているのはめずらしいとのこと。柱の木は薄い色をしている。
お昼の時間となったため、西に向かい、『メキシコ』というタコス屋さんへ。ここのタコスの皮は、クレープをかるく揚げたようなサクサクもちもちした食感で、その皮にミートソースやキャベツやトマトやチーズがはさまれて、めちゃんこ美味しい。えーっ美味しい〜っと言っているあいだに完食。


美味しかったなあと店を出て、西海岸を北上、座喜味城跡に到着。城跡の前の座喜味ユンタンザミュージアムに先に入ってみる。ここでは、座喜味城の歴史や、読谷村の歴史や自然や文化などにまつわる色々な展示が見られた。なかでも、獅子舞の実物と映像の展示が面白かった。獅子舞というと、てらっとした頭部と布の身体部、というのが馴染み深いのだけど、ここに展示されていた獅子舞の身体はシュロの縄で出来ていて、大きな毛のもつれたヤクか何かに見える。実際に演じられている様子を見ると、更に生き物だ。
座喜味城は1400年代に護佐丸という人が築城した城らしく、といっても現存しているのは石垣のみで、よくこのような大きな石垣をつくったものだなあ、と感心しながら見てまわる。日が出てきて暑くなり、近くのお店でぜんざいをいただく。豆を甘く煮たのと白玉の上にかき氷がのる、沖縄式のぜんざい。
58号線を北上。途中の道の駅に寄ったりしつつ、名護方面、今帰仁城跡へ。この城跡は高台にありとても広大で、向こうには青色と水色の海が見える。もうはや咲いている桜はとても濃いピンク色をしている。
夕方になり、今夜の宿に向かってみることにする。美ら海水族館のちかくのフクギ並木のなかにある宿で、細い道をぐいっとはいって駐車場に車をとめる。フクギ並木のなかには樹齢300年以上の巨木もあるとのことで、とても静かにずっしりした木が並んでいる。防風林の役目をもち、台風から家々をまもる役割があるらしい。その並木を歩き、海を見て、もう一度車に乗り込む。チェックインの前に夕食をとることにしたのだ。
近くにある食堂、海邦へ。なかに入ると、お店のおかみさんらしい方と、薄手のダウンを羽織った白髪のおじいさんと、黒地に花柄のシャツを着たおばあさんがテーブルを囲みテレビを観ていた。メニューから三枚肉そばを注文。おかみさんが厨房へ入っていく。おじいさんおばあさんの会話が聞こえてくるが、方言が強くてまったく聞き取れない。ときどきおかみさんが会話に参加して、するとおかみさんの言葉だけは聞き取れるのだけど、おじいさんおばあさんの言葉はどこまでも聞き取れなかった。


三枚肉そばは薄味の出汁に肉がごろりと乗り、とても美味しかった。お勘定をしてもらうと、おばあさんに急に「これ(コロナ)気をつけてね」とはっきり聴き取れる言葉で声をかけられて、びっくり、「ありがとうございます!」と変にはじけたように返事をしてしまう。
日が落ちてきた。栄えている街の方へ行き、スーパーなどを流し見、魚屋さんで刺身を買い、宿に帰る。フクギ並木は明かりがほとんどなく、真っ暗で、空の星がくっきりと見て取れた。
今日のお宿は、ご家族が一階で暮らしており二階の三部屋を宿として貸し出しているタイプの、風呂トイレは共同のお宿だ。建物はとても新しく、風呂はピカピカ。
部屋について、さっそく先ほど買ったお刺身と、道の駅で買ってみた『カニステル』とかいう果物を食べてみる。このカニステルは初めて食べる果物で、見た目は縦長の柿のよう、熟して柔かい実にうすくついた皮を気持ちはがして、かじってみる。食感はカボチャペーストのよう、壁みたいな風味で控えめな甘さ。真ん中には大きな黒い種が入っている。成形して焼いたらそのままクッキーにでもなりそうな、もったりした不思議な果物だった。